・+ 月の恋 +・

ガラスの向こうの遠い満月
ガラスの中の娘に恋した

街の外れの路地に佇み エレキで夢見るそのフィラメント
冷たい路上でただ煌々と 命が尽きる夜を待っている

空から降りて月はキスした
愚かなヒトね と娘は笑った
どんなにキスを重ねても 二人が重なることはないのに

どちらも光 どちらが偽り
どちらが地上で どちらが虚空

異なる存在 異なる身体
異なる輝き 異なる時間

あたしは自分の光で輝く
あなたは誰かの光で輝く

あたしはいつも同じ場所に居て
あなたはいつも空を翔けてる

愚かなヒトね と娘は笑った
それでも月は娘に恋した
たとえガラスが隔てていても 想いを隔てるものなどないと

そしてある晩 月の真下で
ガラスの中の娘は死んだ

ちらちら明滅する姿 最期に溢れた眩い光
そうして 娘は呆気なく消えた

冷えたガラスの中は空っぽ 焦げて焼き切れたフィラメント

それでも月はずっと見ていた

瞬きもせず ずっと見ていた








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