・+ エデン +・

あの頃 世界はとても小さな 大切な僕の楽園だった

蝉の声が煩わしいと 感じるようになったのは何時からだろう
昔は 森に溢れる音の洪水が まるでBGMみたいに心地よかったのに

あの頃を覚えているかい

むせるような草の香りと 土の匂いを感じていた夏を
照りつける太陽と 僕をくすぐる風の手のひら
突然の夕立さえ 僕の冒険を止めることなどできなかった

あの頃 僕は知っていたんだ 世界の全てを 生きる理由を

ラムネの瓶から取り出したビー玉と お菓子のシールが数枚
蝉の抜け殻 朝顔の種 珍しい色の小さな石 海で拾った割れた貝殻

あの頃の僕の机には 世界の標本が所狭しと並んでいたんだ

ねえ あの頃を覚えているかい

世界が大きく広がるにつれて 僕の体も大きくなって
そして いつしか知ってしまったんだ 世界は小さくなんてなかった
僕の楽園なんかじゃなかったんだ

夢見る机の引き出しの中に しまい込んで鍵をかけた僕のあの夏
大人になんてなりたくなかった 今では夏なんか嫌いになって

ねえ 僕は覚えているかい 消えてなどない 忘れてしまっただけのあの夏

オフィスで開いた引き出しの中には 名刺入れとボールペンと
予定がぎっしり詰め込まれた 重たそうな手帳が一冊

ねえ 今はどこに行ってしまったのかな
すべてが光に満ちていた 何もかもが輝いていた あんなに待ち遠しかったあの夏は

夢見る机の引き出しの奥

しまい込んで鍵をかけた

大切な 僕のエデン








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