・+ 忘れ物サーカス +・

忘れ物サーカス 君が呟く
幼いあの日の君と僕が テントの隙間からこちらを見ている

空気が割れるような拍手の中で
なぜか僕は あの日の潮騒を思い出す

砂浜と海の境界線を 踊り子の衣裳を着た幼い君が
タイトロープのように歩く

ああ そうか僕らは今 もう取り戻せない時間の夢を
遠く小さいあの舞台の カーテンの向こうに見ているのだ

凍てつく炎を容易く跳び越え 僕らの前に降り立ったライオンが
君が浜辺に落としたはずの 珊瑚の腕輪を君に手渡す

忘れ物サーカス 僕は気がつく
腕輪を取り戻した君が 一目散に海へ駆けてく

砂浜と海の境界線で 君が無邪気に僕に手を振る
僕は客席に一人残され 忘れ物を思い出せずに立ち尽くす

やがてサーカスは幕を閉じ

君は隣で何事も無かったように 楽しかったと云って微笑む

けれど 僕は知っているのだ
テントを出た君の手首に 無かったはずの珊瑚の鎖が
当然のように揺れているのを

かくして夢の一夜は終わり 何も取り戻せなかった僕は
最後にもう一度 後ろを振り向く

灯りの消えたテントの中から 楽しそうな笑い声が
風に揺られて 微かに響いた









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